日時: 平成14年11月28日(木曜日)午後3時〜5時
場所: 池袋西口・豊島区医師会館・3階
演題: 「こけこっ考」
演者: 神田雑学大学理事・メロウ倶楽部会員
得猪外明氏
好天に恵まれ、予想以上の参加者がありました。参加者は以下の通りです。
(敬称略・順不同)
1 松井正治 2 中村貞夫 3 井上正子 4 内本孝一 5 蛭子英二
6 斎藤祥三 7 安田和秀 8 奥野修司 9 日野克彰 10 ミヤ・宮原
11 まや・中山 12 ごんた・瀬戸屋 13 たかのり・王子 14 あろい・芳賀
15 KAME・亀井 16 山口大三郎 17 津田謙二 18 かれい・荒木
19 オアシス・米嶋 20 としつる・原澤 21マーチャン・若宮
22 高浜良友(NTT) 23 幹・甲斐 24 沙羅・甲斐 25 三上卓治
26 秋山(NTT-AT) 27 成澤 宏 28 きらら・鈴木 30獅子王・村上
31 甘辛城主・小池 32 ザックス・杉本
会は医師会館の3階でザックスの司会、かれいさんの開会の言葉で始まりました。初めに雑学大学の三上卓治さんによる得猪さんの紹介とご挨拶があり、この様な研究は世界でただ一人、得猪さんあるのみでしょうと。
得猪さんからはお名前の外明の謂われに始まり、鶏の鳴き声に深入りするに到ったくだりからいよいよ本題に入りました。以下が概略です。
演者の紹介 神田雑学大学理事長 三上卓冶氏
得猪さんは神田雑学大学博士論文として「こけこっ考」を執筆されました。これは鶏の鳴き声がなぜコケコッコーと聞こえるかという素朴な疑問から出発し外国の鶏の鳴き方、日本の鶏の鳴き方の歴史からコケコッコーはいつ誰が決めたかという経緯や鶏、卵など派生する思いがけない事実などを調べたユニークな論文です。
これは昨年暮れ、日本経済新聞文化欄で大きく取り上げられ、続いて文部科学省から学校の先生向け雑誌「初等教育資料」として紹介されました。
「こけこっ考」の話は小学校の「総合的学習の時間」でも紹介されています。
(経歴)昭和34年3月 金沢大学経済学部卒業
4月 日本鋼管(株)入社
福山製鉄所建設に携わった後、大阪営業所をへてナイジェリヤ
の亜鉛鉄板工場、ニューヨーク事務所などで勤務
平成12年6月 (株)アイロックスNKK 退職
神田雑学大学理事、メロウ倶楽部会員
オノマトペ
皆さん、オノマトペ(Onomatope)という言葉をご存知でしょうか。
オノマトペはゴトゴトとかガタピシという擬音語、ヌルヌルとかピチャピチャという擬態語、ワンワンとかコケコッコーという擬声語の総称です。
オノマトペは民族特有の自然発生的に生まれたもので全く理論も文法もなく、どんどん新しいオノマトペが出現し、また忘れられていくというとらまえどころのない蜃気楼のようなものです。
オノマトペは民族特有のもので通訳や翻訳家がたいへん苦労するものです。たとえば、かって子連れ狼の歌でシトシトピッチャン シトピッチャンというで出だしがありますが、これは外国人が目をしろくろするだけで通訳のしようがありません。日本人はなんとなく感覚的に理解できるのですが。
日本人はオノマトペを作り出す天才だといわれています。英語ではせいぜい300〜400といわれているのに対し、日本には1500あるとも2000あるともいわれ、毎日のように新しいオノマトペが生まれています。韓国もかなり多くてニコニコ笑うという表現をシングルボングルといったりスベスベをミックンミックンといったりします。
これは、その国の言語の特性にも関係があります。日本語は母音が多く口を大きくあけて一語一語くぎって発音できますが、英語は子音がおおくて口を閉じて舌の動きで連続した言葉を発音する傾向があるのでオノマトペは発達しないのです。
外国の鶏
日本人はほぼ全員鶏はコケコッコーと鳴くものだと思い込んでいますが英語では皆さんご承知のようにコッカドゥドゥルドゥー(cock-a-doodle-doo)です。別に鶏の種類が違うわけではありません。中国の北京の小学生の教科書には?々々と書いて、これが鶏の鳴き声だと書いてあります。これはウーウーウーと発音するのだそうで本当かと思われるでしょうが真面目な話です。
このようにオノマトペは国によって奇想天外ともいえる表現があります。ドイツではキッキリキー(Kikeriki)フランスではコクリコー(coquerico) ロシヤ語ではクカレクー(kykapeky)です。
今年イタリヤに行って調べたのですがある人はパパガーロ(Papagalo)といい、ある人はコカコーラ(koka kola)だといいました。ずいぶんいい加減と思われるでしょうが先入感を取り去って鶏に合わせて聞いてみると、そう聞こえなくもないから不思議です。
私がかって駐在したアフリカのナイジェリヤの北のほうではザカーラ ヤーイ クウカー という鳴き声がありましたしフイリッピンのタガログ語ではチック タラオー と鳴いています。彼等に日本の鶏がコケコッコーと鳴いていると話すとたいてい大笑いします。
日本の鶏
日本では高天原の天照大神の前で長鳴鳥(にわとり)が鳴いたという神話は有名ですがこれは日蝕の時の話だといわれています。そして鶏は太陽を呼ぶ魔力のある鳥だと信じられてきたのです。万葉集には九首の鶏の歌がでてきますが後朝の別れ(きぬぎぬの別れ)で一夜を共にした男女が鶏の鳴き声で後ろ髪をひかれる思いを歌ったものが多く気のきかない鶏のことを恨んでいます。
この頃、鶏はカケと鳴いていたといわれます。それは鳴き声がカケーと聞こえたからでカッコウのように鳴き声をそのまま動物の名前にした例はたくさんあります。
伊勢神宮では20年に一度遷宮式が行なわれますが、その厳粛な儀式のなかに「鶏まね」という神儀があります。この役を奉仕する神官は、杉木立の闇の中を正殿瑞垣御門内に進み、先ず扇で頭の冠を三度打ち、続いて三回「カケコー」と高らかに唱えます。すると正殿の扉が静かに開き、神殿の奥から御樋代(みひしろ 御神鏡を奉安した箱)が粛々御出御になるのだそうです。
狂言の世界では時々鶏が出てきますが大蔵流では「カウ、カウ、カウ、コキャッコウ」と伝えられていますし和泉流ではコックワクオー、コッカヤッコー、鷺流ではトッテコーなどという表現もあります。江戸時代は各藩が独立国みたいものでしたから人の移もなく独特の方言が使われていました。当然鶏の鳴き声は地方地方によってまちまちで東北ではコケコオエエとか能登ではケッケリダンべなどという表現もありました。
コケコッコーが決められた経緯
明治維新になって政府は標準語の作成の必要にせまられました。 当時、日本各地の方言があまりにもひどく東京に集まった官吏同士で意志の疎通が困難だったからです。明治34年に文部省が出した「尋常小学国語科実施方法要領」には「国語教授二用フル言語ハ主トシテ東京ノ中流以上ニ行ハレ居ル正シキ発音及ビ語法ニ従ウモノ」ということで鶏の鳴き声にも標準語が決められました。
これがコケコッコーです。明治36年の尋常小学読本巻二に「をんどりは(略)はばたきをしてコケコッコーとなきました」と書いてあります。
平成14年はコケコッコーが日本の教科書に登場して100年目にあたります。
(以上)
終わっての質問もいろいろ飛び出し、取材の苦心談も披露されて時間を忘れた一と時でした。
5時過ぎから近くの「栞」で22名で懇親会を開き、ビールとワインで喉を潤しながらの歓談となりました。イタリアンで満足の後、皆さんの自己紹介やら本日の講演に対する感想やらで時間の経つのを忘れた数時間でした。
資料づくりや講演にお骨折り戴いた得猪さん、会場整備にご協力戴いた皆さん、いつもながら素敵なポスターを作成して下さったかれいさん、ご参加の皆さんに厚く御礼申し上げます。 次回1月18日の講演会にお目にかかるのを楽しみにしております。
(文責 ザックス・杉本)